街の糸博士高山芳久氏 クモの糸の驚異
このESSAYはあさひ銀総研の1999年レポート6月号に掲載されたものの転載です。
この執筆者である高山芳久氏は手芸の山久7代目高山久兵衛の弟でパッチワークで有名な金亀糸業に
約50年間勤務後(糸繊維相談室長)定年退職して最近は街の糸博士として糸に関するよろず相談、
ボランティア講演をされています。 ご質問のある方は当社へメールで。お気軽にどうぞ♪
蚕は桑の葉を食べてタンパク質の生糸を吐く。
クモは小動物を食べてタンパク質の糸を吐く。
同じタンパク質の糸を吐くのなら、クモの糸から絹糸のような糸が出来ないものか、という考えが長い間私の頭の中にあった。

東京都高尾自然科学博物館主催のクモ観察会があり、参加した。
先生の指導で高尾山にいる200種類の中から約60種類を集めることができた。
クモには1種類の糸しか吐かないものや、タンパク質の成分と吐き出し方法を変えて6種類の糸を吐く高度なものなどがあるという。
女郎グモなどは、スプレーで水滴をかけると美しい繊細な波形の模様が浮かび上がるまさに芸術品である。

面白くなって先生にお訊きし、クモの本を買い集め研究を始めた。
人間がいままでに研究開発した繊維の製造方法は、クモが昔から持っていた能力の真似であることを糸屋を長くやっている私でさえ初めて知り、ビックリしたのである。

本は学術的に書かれているので、現在の繊維業界で使われている言葉に替えてみた。
例えば、ナガコガネグモは次の6種類の糸を吐く。
 (1)長繊維糸(フィラメント)−強力で引糸、枠糸に
 (2)紡績糸(スパン)−ソフトで縮れており、綿上
 (3)複合糸、被覆糸(コアーヤーン)−(1)と(2)の長所である強力とソフトを生かし合った糸
 (4)粘着糸−粘る液体の入った壊れやすい粘球
 (5)弾伸糸−伸び縮みする糸
 (6)極細糸−軽量
また、その性能として、
 ・集中大量生産(虫を捕まえるときに糸で包み込んで動けなくする)ができる
 ・集中大量生産の時、不要な場合はストップすることもできる
 ・巣の横糸として使う(4)の粘着球の上をクモは走らないため獲物に素早く近づくことができる
 ・不要になった糸は溶かして食べる。
 ・必要なとき新しい糸に再製できるので、ゴミが出ないエコロジー素材である
 ・タンパク質が簡単に出来るので、タンパク源として食料になる
 ・ゴキブリなどを食するので、クモを育てて害虫を駆除すれば、自然を尊重した無農薬が実現できる
などが挙げられる。
クモの糸が実用化されれば、製糸繊維業界、自然愛好家に歓迎され、ノーベル賞その他の名誉ある賞をいただき、 全世界の人々より感謝と尊敬を受け、その上巨億の財を得ることができると思う。
わが国は過去において養蚕技術では世界最高であった。
この技術を生かしてぜひとも成功を願うものである。

<参考文献>
 ・クモ基本50”新海栄一(森林書房)
 ・フィールド図鑑クモ”新海栄一(東海大学)
 ・クモの生物学”吉倉眞(学会出版センター)
 ・くらしの昆虫記”小野展嗣(国立科学博物館)

街の糸博士「高山芳久」さんが糸について、人とのつながりについての本を出版されました。1260円で税込送料込で販売しています。
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